決算総括質疑全文 (令和2年決算特別委員会)

2020/12/07

早川太郎 質問。

「つなぐプロジェクト、早川太郎です。今回は大きく2点、区長に質問・提案させていただきます。
まず初めに、区財政について伺います。
決算に係る資料や5日間の委員会審議における答弁などから、令和元年度の台東区の財政状況を分析してみると、歳入は、特別区税は前年に比べ約6億円プラスで約231億円、特別区交付金も、財源である固定資産税や法人住民税の増額により約15億円のプラスとなっています。歳出では、新制度が開始されて5年間で約63億円増加している子ども・子育て支援の総事業費が約130億円となったほか、人件費も職員数の増などで8億5,000万円の増となるなど、義務的経費は前年と比べ約19億円プラスとなり、投資的経費も区有施設の保全を計画的に実施していることもあり、89億円。この年度は取扱いのルール変更で基金も約36億円を活用するなど、歳出総額は決算額としては初の1,000億円を超えてしまいましたが、基金の積立ては約75億円できていて、結果、基金残高は約508億円、区債残高は8億円増えて164億円となっており、安定した財政運営を維持できているように思います。
しかし、将来を見据えてみれば、消費税率の引上げに合わせて配分見直しや、国税化の強化という不合理な税制改正による減収やふるさと納税の影響が強まる懸念もあり、歳出では各種計画に沿って事業を行っていくとするならば、区有施設の維持管理や子育て支援、障害者対策、減災対応にまちづくり、跡地活用など、多額な費用を見込まれる課題は多数あり、歳出総額は膨らまざるを得ません。
そんな状況下で、今回の新型コロナウイルス感染症のパンデミックに直面しています。国のデータでも、既にGDPや消費動向などに景気悪化が顕在化されているように、我が国を含む世界全体が大変な状況に陥りかけています。
委員会審議の中で今後の新型コロナウイルスの影響を伺ってみれば、個人所得減収による区民税の減や消費悪化による地方消費税交付金の減、そして、施設などの使用料や利用料などへの影響が述べられていたほか、法人税には企業の赤字を欠損金として10年間繰越控除できる制度があり、景気が回復したとしても税収の回復が遅れるため、特別区交付金の減収は長期化する可能性が高いとの答弁がありました。
それ以外でも、今回の新型コロナウイルス感染拡大は社会に対して大きな変革をもたらしつつあり、企業や個人などが都心から分散していく傾向が現れ出しています。分散化が進んでしまうと、特別区交付金は財源である法人住民税が対象企業の減少で、固定資産税は需要減少による評価の低下などによってさらに減額となる可能性も高く、区民税も将来推計どおりに人口が伸びないばかりか、区を離れていく人も増えてしまえば税収は厳しくなってしまいます。
さらに、今回の新型コロナウイルス感染症対策で国も都も多額な財政出動を行っており、今後、国や都の支出金がドラスティックに削られていくことも、バブル崩壊後の経験を見てみれば十分考えられる事態であります。
審議の答弁では、リーマンショック時の決算数値を参考に試算を行い、現行の計画どおりに事業を実施していけば、令和3年度以降の5年間で350億円の財源不足が生じるとのことでしたが、今回の新型コロナウイルス感染症の影響はリーマンショックの比ではなく、バブル崩壊時よりもさらにむごい状態となるかもしれません。仮に現行計画どおりに事業を進めていけば、積極的な起債の活用は避けて通れず、歳入も減る中、区債の返還金も増大し、歳出規模は増加していく。この年度ですら経常収支比率は84.3%、バブル崩壊時である平成6年の92.5%という数字を超えてしまうかもしれず、急激に財政の硬直化が進んでしまうのではないかと大変な危機感を持っていますが、区長は今後の財政状況をどのように認識しているのか、所見を伺います。
私は、我が区の財政状況に対して、今も述べたとおり大変な危機感を持っていて、さらにこの新型コロナウイルス感染拡大が人の価値観などに非常に大きな変革をもたらし得るものだとも思っていて、ビジネスや働き方、住む場所や欲しい物、時間の使い方などに変化が現れ出していると思っています。そのためウィズコロナ、アフターコロナには長期総合計画や都市計画マスタープランなどを含め、多くの計画をつくり直して区政を進めていくことが必要だと思っているのですが、その社会的大変革によって多大な影響を受ける可能性の高い長期的な事業については、一旦立ち止まって、その影響をしっかりと検討した上で実施すべきとも思っています。
しかし、中長期的な視点で見たときに、こういった状況下でもしっかりと行っていくべき事業もあります。例えば、旧竜泉中学校跡地の特別養護老人ホーム整備。特別養護老人ホームは蔵前、三ノ輪などの施設でも老朽化が進み、改修は待ったなしの状況であり、ランニングコスト削減を意識した施設運営ができるような施設規模への転換、障害者対応や感染症対応としての個室・多床室のバランス配置、高齢者サービスの施設機能充実など、早急に解決していかなくてはならない課題が山積しています。また、松が谷福祉会館の移転改築も増加傾向にある療育へのニーズ対応や子供から学齢期、若者まで切れ目のない一貫した支援に向けた体制整備は早急に行う行政課題であります。稼働率、バリアフリー対応などの課題のある集会施設についても、利用者の利便性向上のための再統合は必須です。これら区有施設のファシリティーは、区民サービスの向上につながるだけでなく、中長期的な視点で見れば財政面でも寄与できる事業であり、多額な基金活用や区債発行を伴っても早急に実施すべき事業であると思っております。また、区有施設や街路灯の省電力化も温暖化対策やランニングコスト削減に効果が高いとの答弁もありました。計画どおりスピーディーに実施していただきたいと思います。
さらに、新型コロナウイルス感染症対策、いち早く実施された融資制度や全児童生徒へのタブレット端末の配置、児童館・こどもクラブへのWi-Fi設置や、高齢者施設入居者などへのPCR検査など、これら区の新型コロナウイルス感染症対策は大変評価しています。国や都も多額な財政出動を行い、新型コロナウイルス感染症対策事業を様々行っていますが、国や都の助成事業はスピードを重視するあまり、致し方ないとは思いますが、雑な制度設計になってしまっているような印象を持っています。
例えば保育園への新型コロナウイルス感染症対策、元年度の事業は一律1園50万円までの助成、今回の補正予算では一律50万円の助成のほか、延長保育・一時保育の実施可否で追加補助がありますが、審議の答弁にもあったとおり、対策経費は園の規模にかなり影響されるはずであり、同じ50万円が追加助成される園でも10名程度から130名と園の規模に差がありました。園児の数が増えれば園の面積も保育士の数も大きく異なるのに、一律となっているだけでなく、延長保育を実施していなくて、追加助成がない園には80名規模の園もあります。区は対策を身近で検証できる立場にあります。対策費が十分ではない園に対して、区独自の支援を行うべきではないでしょうか。ヨーロッパなどでは、新型コロナウイルス感染症の再拡大がニュースでも取り上げられています。早急に実施すべきです。
また、独り親家庭への支援、給付金や融資、納税猶予や国民健康保険・介護保険の減免、就学援助など、通常は前年の所得をベースに行う事業でも、今回の新型コロナウイルス感染症による影響で減収になった方々に対して、今年度の所得減をベースに実施するようになったものも多くあります。ただでさえ経済的に厳しい独り親家庭で、臨時給付金では給付対象となったものの、肝心の児童扶養手当やそれに伴う各種サービスは受けられるようになっていません。来年度は児童扶養手当の受給対象に該当するかもしれませんが、それでは遅いのではないでしょうか。こういうことこそ区が何らかの支援を早急に行うべきではないかと考えます。
区は、住民に一番身近な行政で、財政規模は決して大きくないので、国や都のような大きな財政出動を伴う事業を展開することはなかなか難しいとは思いますが、こういうときのために基金を積み立ててきたはずであります。今後の予算編成に当たっては、多額な投資を必要とする事業ではありますが、区有施設のファシリティーなど、区民サービスの向上に寄与するだけでなく、中長期的な視点において、しっかりと財政面でも寄与できるような事業や新型コロナウイルス感染症対策において、国や都の対応で抜け落ちてしまっている部分、はざまの部分をしっかりとフォローできるような対策などにも予算を配分すべきと考えます。今後の予算編成における考え方について、区長のご所見を伺います。」

区長 答弁。

「早川委員のご質問にお答えいたします。
まず、財政状況の認識についてです。
令和元年度は、好調な税収等を背景に健全な財政運営を維持してまいりましたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、財政状況は一変すると考えています。
早川委員ご指摘のとおり、今後大幅な減収が見込まれ、基金や起債を積極的に活用したとしても、財源不足や財政の硬直化は避けられない状況です。
このように、区財政については大変厳しい状況であると認識しており、太田委員にお答えしたとおり、持続可能な財政運営に向けた対応が不可欠であると考えています。
次に、今後の予算編成の考え方についてです。
予算編成の基本は、財政状況を踏まえた対応であり、令和3年度以降は減収対策が重要な課題となります。そのため、中長期的な視点に立ち、将来需要や後年度負担を十分に精査することで、トータルコストの縮減を図ってまいります。また、限られた財源の中、社会経済状況の変化を踏まえた多様な行政課題に対応していくためには、国や都の新たな補助制度等の動向を常に把握し、積極的な財源確保を図ることが重要です。一方、国などの制度では補足できない区民ニーズや地域の実情に応じた施策については、区において必要性や有効性などを見極めながら対応してまいります。
私は、基礎的自治体の長として、持続可能な財政基盤を堅持し、区民の生命と財産を守り、「ひと」と「まち」が輝く明るい未来を築き上げられるよう、今後の予算編成に取り組んでまいります。」

早川太郎 質問。

「区長も財政状況については同じ認識を持っていただいていて、予算編成についても中長期的な視点に立った対応や国などの制度では補足できない区民ニーズなどに対応していただけるとのことなので、ぜひお願いしますと要望して、次の質問に移らせていただきます。
次に、水害対策について伺います。
この決算年度である令和元年10月に日本に上陸した台風19号は、非常に強い勢力を維持したまま関東地方にも直撃し、甚大な被害を及ぼしました。荒川上流では、降り始めからの総雨量で最大687ミリを記録し、12年ぶりに首都圏の洪水対策の要である岩渕水門を閉鎖する事態にまで至ってしまい、避難勧告発令の基準となる氾濫危険水域まで、あと50センチ強である7.17メートルまで達成するという事態は、荒川氾濫による被害想定が現実的に起こり得る自然災害なのだと再認識させられました。首都直下地震だけでなく、荒川氾濫も含め、水害対応を早急に進めていかなくてはなりません。自然災害に対する対応では、被害想定に対してでき得る限りの備えと、平時だけでなく、まさに災害時においても正確でスピーディーな情報の伝達が最重要となります。
洪水ハザードマップによれば、区内の3分の2近くが50センチから5メートルの浸水となっており、浸水継続時間では50センチ以上の浸水が2週間以上継続するという想定になっています。現在、区の対応では、水害は事前予測がある程度可能なことから、浸水区域外への避難を行うこととなっており、また、堤防が決壊してから台東区内が浸水するまで6時間近くの猶予があることから、天候次第では決壊後でも浸水区域外への避難が可能となっています。浸水区域外までの避難が長距離移動になる可能性の高い江東5区では、高い建物へ避難する垂直避難が検討されてきていますが、審議の中で長期間垂直避難を実施せざるを得なかったときのリスクを伺ったところ、ライフラインが使用できなくなることから、情報発信・入手手段が限られるとか、衛生面や熱中症など、健康面に与える影響もあり、かなり厳しい生活を長期間強いられることなどが分かりました。また、垂直避難を選択する人が増えた場合のリスクを伺ったところ、1日で救助が可能な人数は2万人程度であり、救助には相当時間がかかることが想定されるとの答弁もあったとおり、現実的には浸水期間中にかなり多くの方が救助されないまま、長期間避難生活を送らざるを得なくなるということも分かりました。垂直避難をした場合のリスクは重大なものがある、まずはそういった情報を正確にしっかりと伝達していくことが最重要だと考えます。
現在、区は、荒川氾濫の際の避難先について、浸水区域外への避難のみを案内しており、具体的な避難先を示していません。避難した後の不安から垂直避難の選択に至ってしまうこともあるのではないでしょうか。3分の2の地域が浸水してしまう台東区では、区内で避難施設を確保することは現実的に困難であると思います。しかし、荒川氾濫の被害は首都直下地震とは違い、23区でも被害の比較的少ない地域も少なくなく、また、23区以外の移動手段も壊滅まではいかない可能性が高いことからも、ハザードマップの被害想定を基に事前に台東区民の避難施設を確保していくことは可能なのではないかと考えます。しかし、区外に台東区民の避難施設を整備することは、区だけで実現することではありません。国や都へしっかりと働きかけ、避難施設の確保を行うべきと考えますが、区長の所見を伺います。
今も述べたとおり、災害時における避難施設は避難する方々にとって本当に重要なことであります。区は震災時対応として、それぞれの町会を単位とし避難施設を指定しており、避難所運営委員会も各避難所に立ち上げ、避難所ごとの避難訓練なども実施し、備えています。また、来街者には一時滞在候補施設として9施設を準備し、上野や浅草などでは来街者向けの避難訓練も実施しています。しかし、水害時対応では、昨年の台風19号時に、今まで区民に周知していなかった自主避難所が初めて4か所設置されたことなどもあり、震災時の避難所に避難しようとする方もいて、混乱もありました。
先日の委員会では、神田川氾濫や内水氾濫が想定されるときに設置される避難場所の説明もあり、新たな避難のパターンが追加されています。新規住民も増え、自分の所属町会を知らない方も増えてきています。転入時に防災地図を配布するなど、様々な機会を捉え、周知を図っていることは存じていますが、この決算年度で行われた区民意識調査によれば、半数近くの人が、自分がどこの避難所に避難するか知らないとの回答結果があり、残念ながら情報伝達が行き渡っていないのが現状です。ましてや水害時対応時のパターンが荒川氾濫や神田川氾濫、土砂災害など、数パターンであれば、なおさら混乱してしまうことは明らかです。
私が以前提案させていただいた、区独自の防災アプリである台東防災アプリが、平成27年より導入され、幾度かのバージョンアップがなされ、区民と区民以外の利用者にそれぞれの避難施設が分かりやすくなっていたり、外国語にも対応するなど、有用性が増しています。また、昨年の台風時にも、岩渕水門などの情報がホームページにつながらず得られなかったときでも、アプリを通して情報をキャッチすることもできました。災害時における重要な情報伝達ツールとなりつつあります。
区内のスマホ所持率は約9割というデータもあり、アプリの活用者も8,700件と増えてきています。避難施設についての周知を平時からしっかりと行っていくことは重要ですが、災害時はイレギュラーなことが起こり得るし、用意している避難施設が予定どおり開設できるか分かりません。タイムリーにそのとき必要な情報を必要な人に届けるには、既存のアプリを水害時対応でも活用すべきです。併せて、災害時に一番必要となる所属町会名も分かるようにしていただきたいと思います。防災アプリをさらに水害時にも活用できるようバージョンアップし、併せて区の災害時のアプリ情報の有用性を区民に周知することで活用を促していくべきと考えますが、区長の所見を伺います。」

区長 答弁。

 「ご質問にお答えいたします。

 まず、避難施設確保のための国、都への働きかけについてです。
荒川氾濫時は浸水継続時間が長く、2週間以上と想定されており、様々な生活上のリスクが生じることから、垂直避難は浸水区域外に避難する時間がない場合の最終手段であると考えています。区外への避難施設の確保については、区市町村間、都道府県間の調整、協議が不可欠です。そのため、本区も参加している首都圏における大規模水害広域避難検討会をはじめ、あらゆる機会を通じて自治体間の調整が円滑に進むように国、都に働きかけてまいります。
なお、先ほど寺田委員のご質問にお答えしたとおり、姉妹友好都市等の連携の可能性についても、各自治体と協議してまいります。
次に、台東区防災アプリは、今、大変重要なツールとして活用いただいております。この拡充についてですが、早川委員ご指摘のとおり、風水害時において、防災アプリによる区からの情報発信は、区民の避難行動を支援する情報提供手段として極めて重要であると認識しています。また、災害時の避難行動において所属町会名は必要な情報です。そのため、防災アプリの機能強化による風水害対応や町会名表示について検討してまいります。」

 早川太郎

「水害時の避難先への対応、本当に重要なことでございますので、区長、ご答弁いただきましたが、ぜひともよろしくお願いいたします。
この決算年度においては、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、思いどおり予算を執行できなかった事業も多々ありますが、行政計画事業では、例年と遜色ない事業執行がなされているものも多く、また、今後の厳しい財政状況に備えて、しっかりと行財政基盤の強化に努められておりますので、つなぐプロジェクトといたしましては、令和元年度決算について認定させていただきます。ご清聴ありがとうございました。」

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