早川太郎 質問
「つなぐプロジェクト政調会長、早川太郎でございます。会派を代表して、大きく3点伺います。
まず初めは、財政についてです。
今定例会で提出された補正予算案では、特別区民税は約5億円、特別区交付金に至っては17億円の増収が新たに計上され、一般会計では基金の取り崩しをほぼ実施することなしで済むことになりました。さらに、基金を約50億円積み増したことにより、基金残高は約400億円となっています。
28年度予算案では、前年度当初予算に比べ特別区民税は約7億円、特別区交付金も7億円の増収を計上しています。一般会計は、前年と比べ27億円増の968億円で、区政史上一番規模の大きい予算案となります。そうした状況下にあっても、区債発行、そして基金取り崩しの総額は前年に比べ約11億円も少ない約23億円で済んでいます。これらの結果から、財政状況が飛躍的に好転しているようにも見えます。
しかし、将来に目を向けてみれば、歳入では消費税の増税による地方消費税交付金の増額は、区が支払う消費税や住民税の国税化などの影響で、区財政へのプラス要因とは必ずしもなり得ません。消費税10%移行後には、さらに国税化が強化される可能性も高く、特別区交付金に与える影響は深刻です。また、景気の低迷による歳入減や消費税増税分の転換措置として、国、都からの支出金の減などの懸念もあり、さらに地方消費税の軽減税率実施による消費税収の補填財源のあり方によっては、台東区に交付される地方消費税交付金の減額懸念もあります。
歳出面でいえば、区有施設の老朽化対策として、前年当初予算対比で約4億円増の約20億円が28年度予算案では計上されておりますが、区の公共施設保全計画中間のまとめによれば、待ったなしの老朽化対策をしっかりと計画的に進めていくということで、試算では今後30年間で約850億円、各年では平均28.4億円の経費がかかる予定であり、多額な経費がかなりの期間、必要となってきます。
また、子育て支援対策では、子ども・子育て支援新制度が開始される前の26年度から比較すると、28年度までの3年間で認可保育所5園、小規模保育所4園などが新設されることになっており、こども園を除く保育施設の運営コストは、28年度の予算案では約53億4,000万円、26年度決算数値と比べて約13億3,000万円、3割以上の増額となっています。その増額分のうち、国や都などの補助金や保育料などの収入を差し引いた一般会計からの支出が約8億1,000万円にもなっています。保育施設の需要が高まる中、待機児童ゼロを目指すなら、保育施設のさらなる充実は必須であり、さらなる増設が必要となってきます。それに加え、子供の人口増加に伴い、放課後児童対策や学校施設の整備、子ども医療費助成など、子育て支援経費は今後大幅な上昇が予想されます。
一方、高齢者対策では、400人弱が待機者となっている特別養護老人ホームの合わせて200床以上の施設整備費として、28年度約11億円の予算を計上しておりますが、将来的に見れば、特別養護老人ホーム整備はこれで済むわけではありません。介護報酬でペイできるとされている100床を大きく下回る施設が谷中、浅草、蔵前、三ノ輪など多数あり、現状、指定管理費として赤字分を区が補填しておりますが、これら施設は従来型の多床室で運営されていることもあり、他の場所に大規模施設を新設することを含めて、施設自体の検討を行っていかなくてはなりません。また、地域包括ケアシステムの構築に向けては、今後ますます重要になる介護予防事業の充実が必要であり、当然それに係る経費も増大します。
さらに、障害者施策の事業費では、障害者自立支援法成立以来、障害福祉サービスの内容充実や、受給者の増により、5年前の23年度予算現額約35億8,000万円に比べ、28年度予算案では約47億2,000万円と5年間で11億4,000万円の増額。今後も生活支援施設や福祉作業所、グループホームの整備など、充実していかなくてはならない事業も多く、事業費は増大していきます。
さらに、本年4月に施行される障害者差別解消法を積極的に支援していくためには、バリアフリー対応など、官民問わず障害者支援を促進していく施策が必要となっていくことでしょう。
そのほかにも、東京オリンピック・パラリンピックに向けた取り組みや、耐震化・不燃化などの災害対策など多額な費用が見込まれる課題は多数あります。新興国の経済不安や原油価格の大幅な下落など、ことしになって急激な円高が進み、株価に至っては一時、年初から4,000円近く下落し1万5,000円を下回りました。また、内閣府が15日に公表した、昨年10月から12月期のGDP速報値によれば、GDPの約6割を占める個人消費が半年ぶりのマイナスになるなど、我が国の経済状況は先行き不透明感が増してきています。
今後も子育て・高齢者・障害者などへの対応は充実していかなくてはなりませんし、耐震化・不燃化など命を守る施策はさらに充実していかなくてはなりません。
基金にしても、リーマンショック以降、景気低迷による減収の影響などで22年度から24年度の3年間で、当初予算では約110億円の基金を活用し、財源対策を行わなければなりませんでした。景気が悪化し、歳入が増加していかなくても、先ほど述べたような施策は今後も持続的に事業を展開していかなければなりません。今まさに必要なものには十分な予算措置をとっていかなくてはならないとも思っておりますが、将来に備え、引き続き財政基盤の強化のために努めていくべきと考えます。
服部区長は、区の財政状況をどのように認識し、将来の備えに対してどのように対処していくつもりか、ご所見を伺います。
次に、環境政策について伺います。
気候変動の影響により、干ばつや異常気象、海面水位の上昇、感染症の拡大、生物種の絶滅など、気候変動による被害は着実に世界中で広がっています。その影響は台東区においても例外ではなく、猛暑日が続くことによっての熱中症や局地的な集中豪雨による浸水被害などがあり、日本各地の洪水被害を見ても、荒川決壊による区の3分の2が被災する洪水ハザードマップの想定が現実的な恐怖として再認識されています。
昨年12月に開催されたCOP21において、気候変動による人間社会や生物・自然への影響を抑えるための大きな前進となるパリ協定が、世界196の国・地域により採択されました。
パリ協定では世界の気温上昇を産業革命前と比べて2度よりかなり低く抑え、さらに1.5度未満となるよう努力するため、2020年以降、先進国と途上国がともに排出削減目標の作成と提出、対策実施の義務を負い、5年ごとの評価を通じて永続的な対策を続けることとなります。今後、我が国はパリ協定を受けて、平成42年度に25年度比で26%削減という約束草案の達成に向けて、国内対策を整備していくことになります。
また、東京都では、世界一の環境先進都市・東京の実現を目指し、国の削減目標よりもさらに厳しい、平成42年度までに、12年度比で30%削減という新たな目標設定を行おうとしています。電源構成の30%弱を占めていた原子力発電から、3.11以降、より温室効果ガス排出量が大きい火力発電へのシフトが進んだ結果、電力会社が一定の電力をつくり出す際にどれだけの二酸化炭素を排出したかの指標であるCO2排出係数は震災前と比べて5割以上も上昇しています。電力供給における再生可能エネルギーなどのさらなる活用や蓄電池などの飛躍的な技術の進歩がなければ、この目標はかなり厳しい状況です。
CO2排出量の多くを民生部門が占める台東区においては、行政だけでなく、区民や区内事業者、まさにオール台東区で一丸となって目標達成に向けて行動を起こしていくことが必要となってきます。温室効果ガス削減に向けて、国や都の目標と同等の目標を定め、実現に向けてCO2削減を推進していくなら、区長の断固たる決意が必須です。
今回の所信表明演説においても、残念ながら区長の環境政策に対する思いが十分に発信されていなかったように感じますので、この際、区政における環境政策の位置づけをどのように思っているのか、また、CO2削減に向けてどのような意気込みを持っているのか、ぜひご披露いただきたく、服部区長のご所見を伺います。
区がCO2削減に向けて、自己完結できる数少ない施策の一つに区有施設の省エネ化推進があります。区有施設の省エネ化はCO2削減に寄与するだけでなく、将来における経費の削減にも大きく効果をもたらします。しかし、多大なコストを伴う区有施設の省エネ化については、原則、大規模改修時に行うとなっています。
公共施設保全計画の中間のまとめでは、省エネ化を進めることにより30年間で58億円、単純割りだと年約2億円のコストが軽減できるとの試算がなされています。光熱費の大きな本庁舎は、既に省エネ化を進めており、さらに、この試算の中には多額な電気料のかかる街路灯なども含まれておりません。施設によっては1年前倒しするだけでも多額なコストが削減されることになります。将来においても、決して楽観できる財政状況が期待できない中、ランニングコストも減り、かつ、CO2削減に貢献できる省エネ・再生可能エネルギーの導入は、今まさにアクセルを踏むべき施策なのではないでしょうか。
また、太陽光発電など、再生可能エネルギーの活用により、災害時の電力供給を賄うことができるようにもなります。区有施設のCO2削減をしっかりと進めていくために、エネルギー消費量削減の成果をはかりにくいCO2削減目標だけでなく、年度ごと、個別施設ごとのエネルギー量削減の目標数値を立て、しっかりとした進捗管理を行っていける体制を構築すべきです。さらに、その成果をわかりやすい形で発信し、区民の意識向上につなげていくべきと考えます。
そもそも区民や事業者などに省エネ推進を働きかけるなら、まずは行政が自身でできること、つまりは区有施設などにおける省エネ化を誰よりも推進していかなくてはならないのではないでしょうか。区有施設の省エネ・再生可能エネルギー推進に向けて、区長のお考えをお聞かせいただきたく、所見を伺います。
最後に、協働事業について伺います。
社会が多様化し、その社会で暮らす区民もさまざまな生き方が選択できる時代になってまいりました。それに伴い、行政に求められるサービスも多様化・複雑化してきており、今までの行政手法だけでは対応し切れない状況となってきています。将来においても決して楽観できる財政状況が期待できない中、多様な行政ニーズに応えていくためには、やる気やノウハウのある団体と協働しながら行政サービスの充実を図っていく、そういった行政手法を地方自治体は積極的に推進していかざるを得ない時代がやってきています。そのための施策が協働事業であり、NPO法人などの団体や公益活動を実践する企業などの社会貢献活動団体と区が力を合わせ、地域の課題解決へ取り組む仕組みの構築が急務となってきています。
昨今、各自治体では、行政サービスの充実・情報発信を強化しています。スマートフォンなどの普及により、各自治体の情報を比較しやすくなってきており、特に交通網が発達している23区では、より自分に必要な行政サービスを行っている自治体を選択肢の上位に位置づける可能性が増してきているからなのではないでしょうか。将来的には、協働事業活用の成否が地方自治体の優劣を決することになるかもしれません。
区は行政計画において、提案型協働事業制度を29年度から実施とし、26年3月に台東区協働指針を策定、来年度より中間支援組織を台東区社会福祉協議会内に設置するための整備を進めています。また、来年度からは、区民課のコミュニティ係を改組して、協働などを担う協働・多文化共生係を設置する予定であり、協働事業の推進に向けて準備を進めていることは評価しています。
しかし、協働事業の成果をしっかりと出していくためには、中間支援組織の優秀な人材の確保や利用しやすい立地、補助金指針の見直し、オープンデータの実施、庁内における組織改正を含めたバックアップ体制づくりなど、推進に向けてやるべきことは、まだ多数残されています。そして、一番重要なことですが、協働事業を成功させるためには、何よりも行政側の意識改革が必須であります。
台東区においても、協働事業の実施・育成を最重要課題の一つとし、区長の強いリーダーシップで着実に育成していくための準備をしっかりと行っていくべきと考えますが、区長の所見を伺います。
以上で私の質問を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。」
区長 答弁。
「早川議員のご質問にお答えいたします。
ご質問の第1は、財政についてです。
まず、本区の財政状況に対する認識です。
国は、1月の月例経済報告において、我が国の経済は緩やかな回復基調が続いているとの認識を示しています。一方、議員ご指摘のとおり、昨今の不安定な金融資本市場の変動に見られるように、景気の先行きは不透明さを増しているものと認識しております。
本区の財政状況は、歳入では消費税率10%への引き上げ時におけるさらなる国税化による影響で、主要財源である特別区交付金の減を懸念しています。また、歳出においては、人口の増加や区有施設の老朽化への対応など、増大するさまざまな行政需要を抱えており、予断を許さない状況にあると考えております。
次に、今後の財政運営についてです。
私は、いかなる経済状況にあっても、区民福祉の充実や新たな行政需要に的確に対応していくことが重要と考えております。そのためには、基金は財源不足や景気変動などに備えるため、一時的な歳入の増加や結果的に生じた歳計剰余金を積み立てる一方、必要な区民サービスや財政需要に対応するため、適切に活用してまいります。さらに今後、区有施設の計画的な大規模改修などの財源としては、一般財源の状況や世代間の財政負担の平準化の観点を踏まえつつ、特別区債も慎重に活用を図ります。
私は、将来にわたって区民の皆様が安心して生活できるよう、基金や特別区債を有効に活用しながら、中長期的な視点に立った安定的な財政運営を推進してまいります。
ご質問の第2は、環境についてです。
まず、区政における環境施策の位置づけとCO2削減の推進についてです。
私は、環境施策は区民生活の基盤を占めるものであり、地球温暖化対策、まちの美化、循環型社会の実現、環境教育など、区政全般にかかわる重要課題の一つであると認識をしております。また、地球温暖化の原因であるCO2の削減については、区は住民に最も近い自治体として、区民や事業者とともに一丸となって、この課題に取り組んでいかなければなりません。
そのため、区では、区民や事業者の省エネ行動の実践や省エネ機器の導入に対し、より一層の支援を行い、CO2の削減を目指してまいります。さらに、国や都とも連携を密にし、継続的に取り組んでまいります。
次に、区みずからの省エネルギーの推進についてです。
議員ご指摘のとおり、区民や事業者に省エネを働きかけるに当たり、区みずからが率先して模範を示し、先導的役割を果たしていくことが重要であると私も認識をしております。
そのため、区有施設の大規模改修等の際には、省エネ機器を積極的に導入することはもとより、既存施設にあっても、LED照明などの機器については、積極的かつ計画的に設置し、省エネを推進いたします。また、本年3月に策定する区有施設地球温暖化対策推進実行計画において、エネルギー使用量等の削減目標値を設定し、着実に実施いたします。
こうした取り組みにより、エネルギー使用量削減によるランニングコスト削減のメリットなどを区民や事業者にお示しして、区が指導的役割を果たしてまいります。
ご質問の第3は、協働事業についてです。
地域を取り巻く環境が、多様化・複雑化する中、町会等、地域社会で活動する団体が持つ専門性などを生かす協働がもとめられています。私も今後の区政運営にとって、地域における課題解決や地域力の向上に向け、協働がますます重要なことであると認識をしております。
そのため、本年4月に開設する中間支援組織は、さまざまな分野で活動する区民や団体、事業者などと幅広いネットワークを構築して、区や団体間のパイプ役として協働の取り組みを促進してまいります。
今後とも本区の多彩な特性や地域の魅力を生かしながら、より一層協働を推進し、区民の皆様とともに知恵と力を出し合い、住みよく暮らしやすい地域社会の実現に向け、鋭意努めてまいります。」